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某所連載中の二次小説に対する、腐女子な愛を叫ぶ場所
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ひとりオヤジ祭りでアルバート・フォン・ディーケン少将とハウプト中将のオヤジコンビ。
第14話あたりにあったらいいなぁ、な妄想。
外伝でハウプト中将がいっぱいしゃべってくれて嬉しかったのは、多分私だけに違いないw





軍務省の建物から出て、息を吐く。
空は夜の帳が落ち、きらめく光は星か衛星か。
ぼんやりと見ながら考えるのは、星々の光に対する深遠な考察ではなく、夕飯のことだった。
宇宙の真理より人間の腹具合を追求する方が、はるかに現実的で切羽詰っている。
「テイクアウトか、適当に食べて帰るか……」
今日は妻は娘と出かけている。贔屓の役者が出る舞台のチケットが取れたとか何とか。
アナタは好きに食べてらしてね、と言うことだ。
……連絡をくれただけ良しとすべきだろう。とりあえず、存在は忘れられていないのだから。
さて、どちらにするかと首を捻った時、後ろから聞きなれた声が掛けられた。
「珍しいな、ディーケン。卿が此処に来るとは」
「これはハウプト中将」
振り返るとコートを着て帰り支度を整えた人事局長、士官学校の先輩でもあるハウプト中将が立っていた。
敬礼すると先輩もおざなりに軽く敬礼を返し、やめだやめ、と手を振った。
「お偉い艦隊勤務の奴等とは違って、後方担当は24時間働いてるわけじゃない。
職務時間以外は堅苦しいことはやってられん。気楽にいこう、アルバート」
「……先輩、余りそれは大声で言わない方がよろしいかと」
こちらも昔のように気安く呼びかけてしまうが、もう何十年もの付き合いだ。
今更礼儀云々を口にするような間柄でもない。
飯でもどうだ、と言われて一も二もなく飛びつく。
1人で寂しくテイクアウトを突くよりは、少しでも愚痴を話せる相手がいる方がいい。
「卿こそ、いいのか。奥さんは」
「はぁ。本日は妻にも娘にも振られて、1人で寂しい夜になる予定でしたから」
しらず、顔を見合わせ同時に溜め息を吐いた。
家族を愛してはいるが、その生活には色々と問題がある。これだけは身分など関係ないということだろう。いや、貴族特有の社交という分野だけは、平民が羨ましいと思わないでもない。
「じゃあ、行くか」
「ゼーアドラーですか?」
「だれが、あんなお高く留まった奴等のいる所にいくか。昔馴染みのほうだ。今日はそんな気分なんだ」
肩を竦めて歩き出す。
それは高級士官達のゼーアドラーとは逆方向……まだ下士官だった頃から一緒に管を巻いていた店への道だ。
ゼーアドラーは軍内の噂話を集めるには良い場所だが、気の置けない話をしたいときには向かない。
特に上に愚痴を言いそうな今夜は避けるべき場所だ。
「地上車を止めましょうか」
「歩けるときに歩いておかないと、すぐに腹が出て娘に嫌われるぞ?」
少し距離があるので親切で申し出たのに、可笑しそうに返される。そう言うハウプト先輩は気楽な一人暮らしだ。奥さんと子供はどこかで元気にやっているだろう、という。
「それで、どうして軍務省に?」
「ウチの部の女の子達から睨まれましてね。お遣いをお願いするにも少々気詰まりで。しばらくは下手に突かないことにしました……まあ、あの空気から逃げたかったという本音もありますが」
「ヴァレンシュタインか」
「ええ」
目を掛けて育てていた部下が、前線に送られる。
それを思うと溜め息がこぼれる。それでなくとも、女性下士官達から絶大な人気を誇っていた大尉が移動というだけでも大騒ぎだというのに。
「せっかく優秀な部下が来て、私も楽が出来ると喜んだのですけれど」
「ああ、私もお前のところに送りこめてホッとしていたんだがな……」
士官学校卒業前から注目の的だったエーリッヒ・ヴァレンシュタインという少年は、それはもうあちらこちらから引く手数多だった。
官房局、法務局も、宇宙艦隊司令部ですらも彼の配属を希望したのだ。
少々の肉体的欠陥など物ともしないその資質は、日々使えない貴族共に苦労している面々からしてみれば、喉から手が出るほど欲しいだろう。
それは兵站部だって同じ事。
後方だからとだらけた空気がある上に、回されてくるのは覇気もないボンクラ坊ちゃんか、腰掛け気分の女性士官。
真実使える少数が、どれだけ苦労して日々の業務をまわしていることか……。
其処に兵站を希望するという新進気鋭の士官がいるとなれば、先輩に土下座してでも、という勢いで懇願した。
士官学校の校長も彼の希望を第一にしてくれ、と珍しく願ったらしい。
そんなこんながあって、コチラの窮状も知っているハウプト中将は他の圧力を跳ね飛ばして、彼を兵站に回してくれたというのに。
「情けない上司です……部下一人護ってやることができない……」
あれだけ優秀なのだ。天狗になっていてもおかしくは無いのに、どれだけ机上の事を学んでいても、現場で実際に使えるかどうかは別なのだ、とコチラの教えを吸収しようとする真摯な姿勢。向けられる柔らかな笑顔。
そう、女性下士官達だけではない。私だって彼の事が気に入ったし、出世は遅くなるかもしれないが、ここで育て上げようと決心していたのだ。
今まで私が培った兵站のスペシャリストとしてのノウハウを全て教え込もうと、様々な仕事をやらせてみた。
その一環として、イゼルローンへの補給に付き添わせ、実際の現場というものを見せる、それだけのことだったのに。
それが、こんな結果を……彼を前線に送ることになるなどと、誰が予想しただろう。
「悔やむな。ヴァレンシュタインが優秀すぎた、それだけのことだ」
そう、搾り出すようにつげる先輩も悔しいのだろう、苦々しい顔をしている。
「司令部に入れろだの、もっと楽な場所におくれだの、上司が気に食わないから移動させてくれなどと下らん事を言いに来る奴等に会うのも億劫だがな。
あんな辞令を言い渡すのもいい気はせん。いやな仕事はさっさと終わらせるに限る」
それで後回しにした奴らからは嫌味を言われたが、と先輩はちょっと笑った。
「私も彼の顔を見れませんよ。辞令を受け取ったあと、彼はしばらく地下資料室に篭っていました。退職は受け入れられないなど……あたら優秀な人材を死地に送るこの国が」
「それ以上は言うな、アルバート。まだ生きていたいならな」
「…………はい」
そうだ。その現実を誰より知っているのは、私よりも先輩だ。
うまく貴族の我侭と、現場の意見の間を泳ぎ切り、必要な部分に必要な人材を、と苦慮しているのを知っている。
先輩が人事局から追い出されたら、帝国軍はもっと悲惨な事態になるだろう。
それを先輩自身も分かっているから、三長官に睨まれる様な事は避けて無害な手駒に徹している。
家族と別れたのも、何処かの馬鹿な貴族に人質にされるのを懸念しての事だと知っている。実際に身の危険を感じたこともあるらしい。
「やり切れんな…………だが、よくある悲劇だ」
「そうですね、何処にでも転がっている惨劇です」
今までにも、同じような例は何度も見てきた。
上官に少々不都合だからと、どれだけ優秀な若手が前線に送られたか。
それを知る度に痛んでいた胸の奥は、何時しか鈍磨して無反応に近くなっていたが、今回だけは駄目だ。相手に私自身が関わりすぎている。
「ほとぼりが冷めるまで数年、彼が生き残ってくれればこちらに戻す……そのくらいはしてみせる」
「生き残れれば、ですね」
「そのために、辺境でも司令部の結束が固く、頻繁に補給上陸して兵達の志気を損なわないようにしていると評判の艦隊に預けるんだ。少なくとも、悪いようにはならないだろう」
先輩なりに色々考えてくれてはいたらしい。
小さく礼を言うと、どうにも照れているのか足早になった。
「あとはオーディンのみぞ知る、って事ですか」
力ない我々にできるのは、祈ることだけだ。
もっとも、その祈りも何処まで届くのか、数多の星になった将兵達にも祈る家族はいただろう。神々には、卑小な人間のことなど、欠片も関わりなくあるというのに。
頭を振り、暗くなる思考を振り払う。
少し離れてしまった先輩の背中を慌てて追いかける。
今夜は少しでも酔って、いやな思いは忘れるに限る。
私たちを慰めてくれる筈の、目指す店の灯りはもうすぐ其処だった――――



その数ヵ月後、ハウプト中将が人事局で悲鳴を上げることになるとそのときは欠片も思わずに。


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無題
せっかく優しい気持ちでカイザーリンクに派遣したのに…。

甘党君が巻き起こした嵐。
ハウプト中将、御愁傷様です。
でもでも、甘党君、無事に?帰ってきましたよ。
あなたの選んだ派遣先は間違ってなかったです。

ディーケン少将は40台前半くらいでしょうか。目元の笑い皺がいい味出してるタイプをイメージ致しました。
娘さんより少し年上の部下達に、娘のように接している姿を想像して萌え。
ついうっかり、妙齢のお嬢さん達をティーンエイジャーと同じように扱ってしまい、冷ややかな視線を返されるとか?

美味しい叔父様達をありがとうございます。
oskar 2010/12/15(Wed)20:55:30 編集
Re:恩を仇で返された?(笑)
きっとハウプト中将は「世の中こんなはずじゃない事ばっかりだ……」と呟いたに違いありません(笑)。
ちょっと腹黒くて強かだけど、それは保身の為の処世術と割り切っちゃうけど、でも根はきっといい普通のおじさん……だと良いなあ、なんて思いました。
この後、麻薬事件で寝れなくなっちゃうわけですけどね!
温情かけて頑張って甘党閣下をマトモなところに送ったと思ったら、所がぎっちょんの伏魔殿だった、という嫌なオチに苦労していただきたいです。
優秀すぎる甘党閣下がいけないんですよー、と指差してやってください。

ディーケン少将はかってに貧乏貴族扱いしてました(笑)
いや、あそこまで出世してるんだから、そこそこのお家ではありそうなんですけど……どうにも後方担当のこのお二人には煤けたトレンチコートが似合うんですもの(笑)
なんていうか、可愛いおじさん。笑いジワ、良いですねえ……
きっと娘や女子の部下達に嫌われまい、と頑張る四十路越えのおじさん。
でもちょっと空回っちゃうカンジ?でしょうか。
萌えますか?(笑)

いや、こんな私の趣味全開なおじ様たちを愛でてくださってありがとうございますv
【2010/12/16 00:30 つくも】
無題
小話更新ありがとうございます。待ってました!

今回は苦労性の小父様が二人登場。
中間管理職の悲哀を感じてしまいました。
まぁ近い将来、この時感じた鬱屈はきっと吹き飛ぶことになるのでしょう。

サイオキシン麻薬事件とか、兵站統括部第三局の「裏の監察局」化とか。
この先、もっともっとエーリッヒ関係で振り回されるであろうお二人へ……

頑張れ小父様方!

とエールを送っておきます(笑)
KAIRI 2010/12/15(Wed)20:58:30 編集
Re:無題
お待たせいたしました。
おじ様たちの晩餐な小話でお笑い頂けたかどうか(笑)

普通のおじ様たちだって、頑張ってるよね!な中間管理職。
そろそろ昇進とかあるのか、それとも此処で打ち止めか、気になるところです。本編では書かれないだろうし……。
帝国のキャゼルヌ先輩はディーケンさんでいいんじゃね?という気分になりました。奥さんはだいぶ違いそうですけど(笑)。
兵站でちょこちょこ出る割にはあんまり性格描写がないので、勝手にアレコレ妄想しましたが、この先もお二人は一緒に立ち飲み屋で愚痴を零しあってると思いたい。この先、どれだけ振り回されるでしょうねえ(笑)。
魔窟のゼーアドラーなんか行ってられっか、という普通オヤジに乾杯vです。
【2010/12/16 00:40 つくも】
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