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某所連載中の二次小説に対する、腐女子な愛を叫ぶ場所
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それは幸せな記憶のひとつ……って、ことで捏造甘党閣下の子供時代。
黒マントだしね!


それはまだ、この世界が何処であるのか、自覚して間もない頃の事。
ある冬の日に親子で食事に行った帰り、俺は父のコートに包まれていた。
体を冷やしてはいけない、と父がコートの前を開け、俺を抱きあげてコートごと抱えたのだ。
退院祝いで食事に行ったのに、また病院に逆戻りしてはかなわない、というのだろう。
父の体温と、上質な黒のコートが心地よく、俺も恥ずかしいけれど抵抗はせずに大人しく身を任せた。母も父に寄り添いながら笑顔で歩く。
何処にでもある、普通の幸せな家族の光景だ。
「エーリッヒは何が欲しい?」
少しワインが入って上機嫌な父がそう聞いてきた。
「…………ココア」
「うん、家に帰ったら美味しいココアを入れようね……って、そうじゃなくて。ほら、美人なお嫁さんとか」
三歳児に何を訊くのだろう、この父親は。
「よくわかんない……あ、妹、とか」
「い、妹か……」
「あらあら、うふふふ」
少し頬を赤らめた二人が顔を見合わせた。
夜中に二人で次の子供は諦めようと話していたことを知っている。
俺が体が弱く目が離せない。もう一人出来たとしたら、その子には寂しい思いをさせてしまうだろう、と。
「うん。お隣のロルフがね、このあいだ妹が出来て凄くカワイイっていってたから」
そう、その妹と将来結婚したら、なんてバカ話が奥さん同士で出ていたのだ。だが、流石にこの歳で、許婚なんて決められてはたまらない。
「よーし、そうか、父さん頑張っちゃおうかな!」
「あら、アナタったら」
小気味良い音が響いたけれど、俺は何も見ていない。見ていないったら見ていない。
こんなことは日常茶飯事だし、二人とも幸せそうに笑っていたから。
俺も笑っていられた。


そんな父、コンラート・ヴァレンシュタインは弁護士だった。
友人であるハインツ・ゲラーと共に共同で法律事務所を開いていた。
小さい事務所ではあったけれど、幾つもの大口の顧客を抱えていたので、繁盛もしていたと思う。
おまけに奥さんは美人ときた。つまりは俺の母親のことだけれども。
人の良い笑顔で顧客受けはよかったようだけれど、相手が貴族のときには気苦労も多かったらしい。
妻に愚痴を言っては慰められる…………子供としては仲がいいのは喜ばしいけれど、中身の精神年齢としてはこのリア充め、というところだろうか。
そんなこんなはあれど、自分は確かに父を尊敬していた。
デキル父親は子供として素直に誇りだったし、25歳を過ぎた男としても、その仕事ぶりには憧れを覚えた。
貴族相手の顧問で金は稼ぐが、それとは別に平民向けの無料法律相談も積極的に行っていたからだ。
農奴になるしかないような借金を抱えた未亡人とか、親を失った子供の後見探しとか、貴族相手の刑事事件はうまく傷にならないように示談を整えたりとか。
もちろん、これらは俺に話してくれたことではない。子供に話して聞かせるような内容ではなかったことも確かだ。
だけれど、体の弱かった俺が一人で家にいることは多く、書斎には重要なもの以外は資料が多く積まれていた。
齢三歳とは言え脳味噌は十分に大人な俺が、暇つぶしにその辺を読み漁ったとしても、誰も見つけなければ奇異に思うことはないし咎める事もない。
そうしているうちに、見覚えのある地名とか、名前とかを散見して、此処がどんな世界なのかを知るに至ったわけだけれども……それはさておき。
父親が家でどんなに妻の尻に敷かれていようと、外では頼りがいのある弁護士なのだ、と言うことは良くわかった。
前の世ではなんとなく安定を求めて公務員になってしまったが――それを後悔などしていないし、アレはアレで充実していたけれども――今度は違う生き方ができるかもしれない、と思い直した。
体は少々弱いが、脳味噌に問題があるわけじゃない。
これから十数年かけて司法試験の勉強をすれば、多少凡人でも何とかなるというものだろう。
コンラート・ヴァレンシュタインという一人の男と仕事をしてみたい、という気持ちもあった。
大好きだった。
いつか追いつきたい背中だった。

そう思いながら、毎日黒いコートを翻して出かけていく父を玄関で見送った。
ブルゾンとかは他の色もあったけれど、仕事で出かけるときにはいつも黒だった。
どうして?と父に訊いたとき、
「黒は何者にも染まらない――悪にも善にもね。公正無私な態度でいることが時にはこの世界で自分を守る楯にもなるからね」
それは裁判官じゃ?という突っ込みは無意味だ。此処は日本ではない。
むしろ、その意味が今の時代まで伝えられたことが驚きだ。
ただ、父としては貴族から突きつけられる無茶な要求に対して、自身の意志を貫く覚悟を篭めていたのだろう。
戦装束とでも言うのだろうか。
そう、覚えている最後の背中も、黒いコートだった。


そして、俺も俺自身の意思で――黒を纏う。
まだ、あの背中には追いつけない…………追う事も、もう叶わない……


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